根本通商株式会社

(2018年6月)

根本通商株式会社は、福島県いわき市に本社をおき、昭和24年創業以来、石油製品や生コンクリート等を取り扱う地元の総合商社です。また、ガソリンスタンド事業も11か所で運営する等、地域社会に密着した事業を行っています。この度、水素ステーション(以下、水素ST)事業を開始するにあたり、2018年4月、JHyMに参画しました。
今回は、いわき商工会議所・副会頭でもある、根本通商株式会社社長根本克頼氏にお話を伺いました。

1. 水素ステーション事業への想い

 以前から水素ST事業に興味があり、見に行ったり、実際の運営や事業性について話を聞いたりし、知識を深めていました。その矢先、いわき市に水素ST整備計画が浮上し企業誘致に動きましたが、残念ながら実現しませんでした。でも、その時の火は消えませんでした。
 ご存知の通り、福島県では2011年に原子力発電所の事故があり、私達は色々な意味で水素が大きな力を持っていることを目の当たりにしました。水素は拡散しても害はありません。害を引き起こしたのは放射能です。水素の特性を理解し、正しい使い方を習得することが必要です。色々な意見があることは承知していますが、水素ほど有効なエネルギーはないと思いますし、同時に、これを伝えられるのは、私達、福島しかいないと思いました。
 そうしたなか、政府が「福島新エネ社会構想」を策定しました。福島県の沿岸中部にある浪江町で、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)がCO2フリーの再生可能エネルギーから得た電力を使って、水素を製造、利用するプロジェクトを開始しました。弊社も風力のプロジェクトに携わることになりました。現在、福島で作った水素を東京に運び、2020年のオリンピックの一部で使用する予定ですが、地元でも水素を利用する機会あっても良いと考えるようになりました。
 例えば、燃料電池自動車(FCV)の電源を2018年夏に再開するサッカーナショナルトレーニングセンター・Jヴィレッジ(東日本大震災直後から休止していた)で使用したり、いわきサンシャインマラソンでスタートやゴールに使用する電源として使ったり、様々なところで水素やFCVが活躍する場面を見せていきたいです。JHyMの設立は、そんな私達のストーリーを実現するきっかけとなりました。

2.JHyMへの参画について

 JHyMの事業スキームは、私達のような地方の中小企業には手厚いサポートがあり魅力的です。初期投資額が軽減されますし、減価償却の手間がなくなります。また、運営費についてもサポートがあるおかげで、長期的な見通しが立てられる仕組みになっています。JHyMの設立がなかったら、水素ST事業参画はまだ踏み留っていたかもしれません。JHyM設立当初の参画企業は大企業ばかりでしたので、参加に戸惑っていました。ですが、今では毎月の全体会議で皆さんと同等に議論ができています。こんな風に、中小企業が大企業と共に一致団結し、同じ目標に向かって事業を進めることは新規市場開発だから実現できることだと思います。プレッシャーも感じますが、とても遣り甲斐があります。

3.地域との連携について

 一般的に、地域行政と経済界が同じ方向に向かって行動する例はなかなかありませんが、福島県及びいわき市では国が新しい産業に向けて動き出すなか、県が地域産業振興を真剣に考えて補助金を検討してくれました。市も今、FCバス導入について奮闘してくれています。これが重要なことなのです。
 また、水素ST設置の計画を発表すると、周りの地元企業も水素STに興味を持ち始めてくれました。今では、商工会議所の協力のもと、私達の水素STが営業を始める頃には、FCVが約20台になる見込みです。いわき市の人口が35万人ですから、人口当たりのFCV台数は、いわき市が日本一になるかもしれません。地域のみなさんが協力してくれているのは、大変有難いことです。こうして、地元企業が水素ST事業を行うことで、地域に様々な効果が生じます。地域の誰かがスタートすると、関心を持つ地元企業が参画しやすくなるのではないでしょうか。

4.水素ステーション事業について

 一般的に先行者メリットは、新しい地域やまだ普及していない地域に最初に入って、お客様の囲い込みをすることにあります。ですが、現時点ではFCVが少ないため、そもそもお客様の囲い込みができず、先行者メリットがないと思われがちです。現に、今は様子見をしてタイミングを見計らっている方がほとんどです。ですが、2020年後半に次世代FCVの量産化が始まると、一気に市場にFCVが走り始めるでしょう。一方、水素STは計画から運営開始まで約1年かかります。そう考えると、まさに今、水素ST事業を始めることで、数年先にFCVと水素STのタイミングが一致し、より一層普及を加速させることになるでしょう。2~3年前に比べ人々の意識は変わってきました。今こそ、全国的に水素ST事業を展開する時期だと思います。

 多くのガソリンスタンド事業者は、いずれは水素の時代が来ると思っているようです。いずれ来るなら、少しでも早く始めたほうが良いと思います。特に、地方の事業者は自分で土地を所有している場合が多いため、運営費用負担が少ないわけですから、地方のガソリンスタンドこそ水素ST運営に適していると思います。

5. 今後のビジョンについて

 いわき市には、昔、常磐炭鉱がありました。その後、小名浜に石油備蓄基地ができました。そして、今後は「水素」です。CO2フリー水素を軸にして循環する地域産業を育てたいです。また、これからの未来に向かって、親達が新しい産業育成にむけて頑張っている姿を子供達に見せたいです。大人達の後姿を見た子供に「いわきに戻って仕事がしたい」、仮に東京で就職したとしても、「いわきのために何かしたい」と思ってもらえたら嬉しいですね。
 他の地方からも多くの人がいわき市に来てくれるかもしれません。新しい産業を育てると、地域経済が発展し、同時に人口減少にも歯止めがかけられるかもしれません。水素STの運営が始まると、FCVやFCバスが走り始めます。また、エネファームが家庭で使われる等、身近なところで水素を使って初めて安全性を実感できます。水素は安全だということをわかってもらうためにも、水素利用の場を拡げていきたいです。

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代表取締役社長 根本克頼氏(2018年6月)